PwC Japan パートナー ITリーダー髙田様インタビュー
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CEG 福永本日はPwC JapanのIT部門リーダーの髙田様にお話をお伺いいたします。
まずは髙田様の略歴を教えてください。
PwC 髙田私は1990年から2013年まで23年間、外資系ITコンサルティングファームに勤めていました。
前半の13年ほどは主にテクノロジー系のコンサルティングを担当していました。
後半の10年はエンジニアを集めて設立された子会社のCOO(Chief Operating Officer、最高執行責任者)として組織作りに取り組みました。
「コンサルティングといっても、頭でっかちにならないよう、モノづくりのベースである“技術”を持つべきだ」という危機意識を持っていたところ、ちょうどグローバルの方針と合致したためです。
採用・マーケティング戦略、人材育成戦略等を立案・実行し、10年間で従業員が50人から1,000人を超える規模まで成長することができました。
その後、子会社が親会社に再編入されることになったのをよい区切りとし、次のキャリアとして、自らIT部門のリーダーとしてやっていきたいと考え、PwC JapanのIT部門に転じて6年ほどになります。
CEG 福永現在、高田様がリードされているPwC JapanのIT部門はどのような構成になっているのでしょうか。
PwC 髙田正社員が40人強、必要に応じて協力会社の方々にも来ていただいているので、時期にもよりますが100人近くが業務を行っています。
インフラやアプリケーション、ユーザーサポートなど役割ごとに、約10チームで構成しています。
職階で見ると今は比較的バランスが良く、マネージャー1人に対してスタッフが2~3人くらいの割合ですね。
CEG 福永確かにこのくらいのチームだとマネージャーはチーム全体に目が届きやすく、スタッフはマネージャーからのアドバイスを受けやすくて、お互いに良い環境と言えそうですね。
さて、髙田様が、6年ほど前にPwC Japanにジョインされた際には、どのようなミッションを担っておられたのでしょうか。
PwC 髙田ミッションは三つありました。
一つはPwC JapanグループとしてのITインフラ等の統一です。
ご存知のとおり、PwC Japanは一つの会社ではなく、監査や税務、コンサルティング、ディールアドバイザリーなど、それぞれのサービスを提供する複数の法人の集合体です。
私が入社した当時、それぞれの法人が別々に導入、運用しているITのインフラストラクチャーやアプリケーションも多く非効率でしたので、可能な範囲でハードウェア、インフラ、アプリケーションなどのIT資産やオペレーションの統合を進めてきました。
この4、5年で、9割がた統合できたかと思っています。
二つ目はグローバルレベルでのアプリケーション、インフラ、オペレーションの統合です。
以前は各国それぞれで導入、運用されてきたシステムが多かったのですが、可能な限り標準化、統合化していくというグローバルの動きが加速してきており、日本もこれにしっかり対応していきたいと考えています。
三つ目は最先端のテクノロジー、今までにないユーザーエクスペリエンスを約7,000人のPwC Japanのメンバーに提供することです。
PwCはクライアントに対して、デジタルを活用したディスラプティブな新しいサービスを提案していますので、社内でも率先してが新しいテクノロジーを取り入れ、効果的な活用方法を提案していかなければいけないと考えています。
例えばグローバルで導入が決まったGoogle Apps(現:G Suite)についても、PwCグローバルネットワーク150か国あまりの中で日本は6番目か7番目に導入したのですが、自分たちがそれをしっかり使い切ることで、クライアントにモデルケースとして提供していきたいと考えています。
CEG 福永PwC Japanグループ内での統一、グローバルレベルでの統合、新しいテクノロジーをモデルケースとなるくらいに活用すること、ですね。
ミッションの一つ目と二つ目は密接にかかわっていると思いますが、実際どの範囲でどこまで統一するものなのでしょうか?
PwC 髙田基本的には統一できるものは全てが対象となりますが、進め方はそれぞれのシステム特性に合わせて異なります。
例えば、ある領域の社内システムは、近いうちにグローバルで統一していく計画があるので、今はその方針が確定するのを待って国内だけでフライングして進めないでおこう、などです。
ローカルで自分たちが率先して導入し、アイディアを出し、提案していくべきところなのか、グローバルと足並みを合わせていく方が良いのかを意識しながら、何を行うべきかを判断しています。
CEG 福永全てを統一していくとしますと、法人が違えば業務も違ってくると思いますので、ユーザーにとってはかなりのインパクトもあり、大変なことですよね。
PwC 髙田おっしゃるとおり、システムを変えるということは、ユーザーにとってはとてもインパクトがあることですが、実はそれほど大変なことだとは考えていません。当たり前のことを当たり前に進めていかないから大変になってしまう、と考えています。
システムが変わると、さらにそれがグローバル標準システムともなると、これまでの業務のやり方でできたことができなくなる、それを不便だと感じて不満の声が上がってきます。これは当然のことです。
このことを理解した上で、システムを更改するときに二つの「当たり前のこと」を行う必要があります。
一つ目は、システムを更改する経営レベルでの目的、メリットも丁寧に説明すること。それがなくて不便だけを強いても不満が出るのは当然です。
経営レベルでどんな効果を出すためにシステムを変えるのかを理解してもらえれば、ユーザーも協力してもらえると信じています。
二つ目は、新しいシステムの使い方を簡潔にわかりやすく説明をして、とにかくまず使ってみてもらうようにする。
ユーザー目線でマニュアルにわかりにくいところがあればすぐに改訂する、というように継続的に改善していく。使ってもらえばいずれ慣れてくるので、自然と不満も感じなくなります。
こういった準備やフォローは、おっしゃるように、大変と言えば大変ですが、行うべきことはごく基礎の「当たり前のこと」なので難しくはありません。
バズワードに振り回されず、基本を大切に「当たり前のことを当たり前に行う」という私たちの在り方がひとつのモデルケースになればいいと思っています。
CEG 山口
変化の速い時代だからこそ、基本を大切にということですね。とはいえ、前回鹿島様にインタビューさせていただいた際に、PwC Japanグループ全体を変革するにあたっては「IFS(インターナル・ファーム・サービス)部門の強化が鍵」であり、グループ全体を見渡しながらの企画機能としての役割を果たすことができるよう「One PwC、One IFSの実現が重要」とおっしゃっていました。
この「One PwC、One IFS」を実現するためのIT部門への期待にはどう応えていこうとされているのでしょうか。
PwC 髙田先ほど申し上げた内容と重なる部分がありますが、One PwCの実現のためには業務プロセスの標準化が必要になるわけです。
そのために必要なシステムの統一化、経営判断のもととなるデータの統一化を推進していける体制を整えていきたいと考えています。
この統一化というのは、基本的にはグローバルで標準を決定し、日本ではそれに従って導入していくのが基本です。
ただ、それが最初から100点だということはまずありません。PwC JapanのIT部門のメンバーは、その前提で、自分たちがグローバルの中で標準のシステムを最も使い込み、日本から改善点を積極的に提案していくことでグローバルレベルの標準化に貢献し、日本の存在感も示す、という気概を持って日々業務に取り組んでいます。
これが、結果的に日本でのOne PwC、One IFSにつながっていく、期待に応えることになると考えています。
CEG 山口何か特別なことをするわけではなく、担っている役割を徹底して果たすということですね。先ほどの基本を大切に、当たり前のことを当たり前に行う、ということとつながっていると感じました。
日本から改良を提案するということですが、実際に日本から発信したものを他国が取り入れた事例はありますか?
PwC 髙田日本から発信した提案を他国のメンバーファームが取り入れた事例はいくつかあります。
細かな例ですが、メールの誤送信防止のため、「本当に送信して良いですか」といったような確認のメッセージが標準のメールシステムではサポートされていなかったので、グローバルチームを動かして日本のために追加機能を開発して運用しました。
それを他のいくつかの国でも導入したいと言われています。
それ以外でも、マネージャー以上のメンバーはそれぞれのチームごとにグローバルとの定例ミーティングに参加しているのですが、その中で日本での事例を共有したところ、興味を持った国のメンバーファームのIT責任者からぜひ個別に詳しく教えてほしいということでミーティングを設けたことも何度かあります。
CEG 福永自分たちが発信したものが世界で使われるわけですから、これはモチベーションが上がりますね。
PwC 髙田
それが狙いなんです。社内ITの仕事は、たとえテクノロジーの進化があり新しいものに取り組んでいくとしても、仕事自体は何年も同じことの繰り返しだと感じながら仕事している人も多いと思うのです。
ユーザーのために新しいシステムや機能を時々導入し、クレームやトラブルを解決し、きちんと運用して当たり前で、感謝されるわけでもない……となると、あまりワクワクしませんし、こんなサイクルが続くのかな、と思うと自らの成長もストップさせてしまうわけです。
そうではなくて、私はもっと社員が楽しんで働き、ITのプロフェッショナルとしてのキャリアを積み、社内外で通用する人材として育つようなIT部門にしたいと考えています。
そのためには、先ほど申し上げたように、グローバル標準システムでも、日本から積極的に使い込んで出てきた改善策をグローバルに提案し、実現していく。
これを繰り返すことで、PwC JapanのIT部門がグローバルのIT部門の中で最もプロダクティブであり、イノベーティブだと認識されるようになる。IT部門のメンバーが、そんなチャレンジを通じて、楽しんで働き、ハイレベルなITのプロフェッショナルになっていってほしいと思っています。
CEG 福永
グローバルで25万人の組織に対し、自ら提案できる環境というのはなかなかないチャンスですよね。ちょうど変革期でもあり、さまざまな機会がありますね。
グローバルに提案、ということですが、やはり英語を使う機会も多いのでしょうか。
PwC 髙田
英語を使う機会があるというよりも、あえて英語を使うようにしています。
例えば、USのコンサルティング部門からシニアマネージャーが1人出向してきたことを契機に、2018年からシニアマネージャー以上のミーティングは英語で実施しています。英語が得意でない人もいるので、どうしてもわからない時は日本語を使ってもも大丈夫、としています。
確かに生産性は一旦落ちてしまうと思いますが、一、二年後にグローバルのメンバーとの協業が更にスムーズに進められるとしたらトータルでの生産性は上がりますので、先行投資期間と考えています。
CEG 福永将来の生産性アップに向けた先行投資なのですね。早く投資を回収できるよう、皆さんには必死に英語を勉強していただかなければいけませんね。
PwC 髙田そうですね。ただ、そこは少し誤解をされないよう注意が必要だと思っています。
英語力を磨くことばかりに意識が向いてしまうと、本来もっと必要なビジネス・コミュニケーションのスキルを磨くことがおろそかになるかもしれません。
それでは本末転倒なので、バランスよく英語力とビジネス・コミュニケーションのスキルを磨き、キャリアを積んでいってほしいと考えています。
採用の場面でも、英語ができないけれどその他のスキルをしっかり持っている人と、英語がとてもできるけれどその他のスキルが弱い人であれば、前者を採用したいと思います。
CEG 福永なるほど。英語力は大切だけれども、先ほどおっしゃっていた当たり前のことを当たり前にできるベーススキルに対する上乗せのスキルであるということですね。
採用についてお話が出ましたが、IT部門ではどういう人を採用したいと考えていらっしゃいますか?
PwC 髙田そうですね。こだわりを持つこと、信念を貫くことと素直さのバランスが取れている人を採用したいですね。
例えば会議で自分の考えと違う意見が出てきたとします。その場合でも、まず素直に相手の意図を正確に把握して全部インプットをする。仮に相手が間違っていることもあるかもしれませんが、シャットアウトせずに一旦は素直に全部しっかりと聞く。そのうえで自分の考えをロジカルに組み立てて整理し、結論を出す。
その結論を自分が信じるのであれば、そこは信念をもって貫く、ただし、その後の過程でも相手の意見を素直に聞いていくことは必要なので、それができること。
自分もそうしたいし、周囲の人にもそうあってほしいと思っています。
一般的にビジネスで成功するのはこのような人だと言われますが、IT業界でも当てはまると思っています。
CEG 山口非常に難しいですけれど、バランスの取れた人ということですね。
採用計画についてはいかがでしょうか。PwC Japanの規模の拡大に合わせ、他部門ではかなり活発に採用活動をされていますが、IT部門でも数多く採用していく予定でしょうか。
PwC 髙田現状でも業務の効率はまだまだ高められると思っていますので、スタッフの人数を急激に増やすということは予定していません。
自分たちの仕事の質を高める、しなくてよいことを見極めることによって、適正な規模のチームで高い生産性でグローバルプロジェクトを進めていけると考えています。
その考えを前提にした募集ポジションですので、丁寧に採用していきたいと思っています。
CEG 山口厳選して採用していらっしゃるわけですね。かなりハードルも高いと思うのですが、私たちもそういった優秀な方に魅力をしっかり伝えて採用をご支援していきたいと思います。
ハイレベルな組織を目指しているということ以外にも、柔軟な働き方や、充実したトレーニングプログラムなど、PwC Japanは働く人にとって魅力の多い組織ですが、髙田様が考えるPwC JapanのIT部門で働くやりがい、魅力はどんなところにありますか?
PwC 髙田そうですね。上位職階のメンバーが部下の育成に積極的にかかわる文化でしょうか。
例えば若手が成果物を作成した際、経験ある上位職階のメンバーがきちんとレビューをして、具体的なアドバイスをしていくようにしています。
レビューを受ける方は最初のうちは大変だと思いますが、こういった積極的なかかわりを続けることで、どんどん力がつき、メンバーのキャリアアップにつながっていると思います。私自身も実践しています。
また、これはキャリア形成に直結するわけではありませんが、グローバルのハイレベル人材・タレントたちと一緒に仕事ができる点はとても魅力だと思います。
海外のメンバーは能力面だけではなく、とても紳士的で人間的な魅力も備えている人が多いので、そのような人たちと仕事をする機会があることはとても心地よいと感じています。
CEG 福永それはこれから自分の力を伸ばしたいという方には魅力的な環境ですね。ありがとうございます。
それでは最後に読者の皆様へメッセージをお願いします。
PwC 髙田近年は新しいテクノロジーを活用して会社を大きく変えよう、変えなければならないという話をよく聞きます。
しかし、テクノロジーの本質を真の意味で理解している人はそう多くないと思っています。
私たちはバズワードに振り回されるのではなく、本質を見極めた上で取り入れ、使い込んでいくという実践を通じて、テクノロジーを真に理解し、スキルとして身に着けていく組織でありたいと考えています。
そうやって一歩一歩ITプロフェッショナルとしてのキャリアを積み重ね、将来社会を変えるような大きな仕事をしたいという志をもっている方とぜひ一緒に仕事をしたいと思います。
CEG 福永スキル面だけではなく、先ほどお話のあったようなバランスのとれた、志のある方ですね。
本日はありがとうございました。
PwC 髙田ありがとうございました。
編集後記
世の中に大きなインパクトを出し、社会貢献性も高いプロフェッショナルファームですが、その躍進を支える管理部門に焦点を当てたインタビューを4回にわたりお送りしました。
成長企業の屋台骨として、活躍の場が広がっているPwC Japanグループの管理部門であるIFS、非常に魅力的な仕事だと感じました。
日本を代表する企業へより成長を加速させるため、力を発揮されたい方は是非チャレンジ頂ければと存じます。
九州大学経済学部卒業後、1990年大手外資系ITコンサルティングファームに入社。システム化計画、導入、業務プロセス改革、プロジェクトマネジメント、およびテクノロジーを中心としたコンサルティングに一貫して取り組む。2003年にグループ企業のCOOとして転籍し、組織とビジネス規模の拡大に貢献。2013年、内部からテクノロジーによってビジネスを変えていくことを実現するためにIT部門のリーダーとしてPwCに転じ、2016年よりPwC JapanグループCIO。