【特別対談】政治家というキャリア ー津村衆議院議員×コンコードCEO渡辺 ー
昨今では、社会起業やNPOといったかたちで社会変革に取り組む人も増えてきましたが、いまだに社会変革の担い手の本流と言えば、政治家でしょう。 しかし、一般のビジネスパーソンから見ると、政治家の仕事の実態は分かりにくく、政治家になる具体的な方法も分かりにくいものです。
そこで今回は、津村啓介 衆議院議員をお招きして、コンコードエグゼクティブグループ代表の渡辺が対談を行い、『政治家というキャリア』を皆さまにご紹介します。 津村議員と渡辺は、麻布高校の同級生という間柄。 社会変革に対して、政治家という道から携わる津村議員と起業家という道から携わる渡辺の二人が、ざっくばらんに語り合います。
「地盤を持たない津村氏が政治家になれた方法とは?」 「政治家にむいている人とは?」 「政治家を目指すあなたが、はじめにすべきこととは?」 「政治家が失脚する意外な理由とは?」
なかなか知ることの出来ない政治家の実態に迫る、社会変革に関心ある皆さまに必見の内容となっています。
Index
#1 パブリックな役割が広がる時代に生きる
渡辺:
コンコードのご相談者の方は、名門大を卒業されて、一流企業で活躍している方がとても多いのだけど、昨今、社会貢献あるいは社会変革という領域の仕事に高いご関心を持つ方が急増してきているんだよね。その実現方法の一つとして、NPOを創業するとか社会起業という選択があったりする。
でも、もともと社会変革の保守本流としては、政治家という仕事があるよね。
津村議員:
そうだね(笑)。
渡辺:
でも、政治家という仕事はまだまだ実態が知られてない(笑)。例えば、政治家になるにはどうすれば良いのか?二世議員の方が地盤を引き継ぐというのはよく分かるけど、ビジネスパーソンの皆さんが、政治の世界に入るにはどうすればいいのかは、かなり見えにくい。それに選挙もあるので、リスクが高いイメージもある。
ビジネスエリートとして活躍している人からすると、今のポジションを離れて、政治家になるのはいろいろな意味でハードルが高いよね。
津村議員:
分かるなあ。
渡辺:
そこで、今日は、ビジネスパーソンとして活躍していた津村君が、二世政治家でないのにもかかわらず、政治家に転身できた方法。さらに、10年以上の政治家としてのご経験を踏まえて、仕事の実態などについてお聞き出来ればと思っています。
宜しくお願いします!
津村議員:
こちらこそ宜しくお願いします!
先ほどのNPOや社会起業に対する動きは、僕も感じるところがあるよね。
昔は、そもそも政治家どころか王様や大名しかいなかった。世の中のリーダーは全て世襲のエリート層だった。それが産業革命以降、一人ひとりの個人が自立出来るだけの経済的な豊かさというのが生まれた。そうなることで、一部の世襲エリート層以外の一般の人たちも教育水準も上がって、将来設計を考えたり、社会に物申したりしていく。そういった意味では、だんだんフラットな社会になってきているよね。
渡辺:
まさにそうだよね。
津村議員:
そう考えると、プロの政治家自体も、もともと世襲の人が中心だった。
でも今は、僕達のようなサラリーマンの息子にも政治家になる道が広がってきているわけだよね。
もっと言うとプロの政治家ではない、民間の方々も、パブリックなものにすごく意識が高くなって、様々な活動をしはじめている。ある人達は、社会起業家やNPOなどを、新しい公共という概念でくくっているんだけど、ITインフラの登場もその活動を加速させているよね。
渡辺:
その通りだよね。
津村議員:
だから、僕達政治家にとってはちょっと複雑なことではあるんだ(笑)。今や、パブリックな役割というのは、政治家が独占しているものではなくなっている。それで、経営者、起業家、NPOなど多様な民間のリーダーの方々が、社会について、とても高い意識で活動されているからね。
僕達はそれに埋没しないように、ものすごいプレッシャーも感じる。そういう意味では、安住できない緊張感がある。
渡辺:
なるほど、そうなんだね。それはとても興味深い話だなあ。
津村議員:
この50年、100年の時代の大きな変化が、僕達の政治家という立場や、新しい公共という大きな変化というものをつくっている。これは決して永遠のものでもないし、昔からあったものでもないし、すごくかけがえの無いものだという意識を持って仕事をしたいよね。
特に、最後にルールメイキングをするのは、我々政治家のレゾンデートルでもあるので。
渡辺:
時代の変化やタイミングの有り難さは強く感じるよね。
社会起業家やNPOなどを目指している人たちも、いろいろと社会に強い問題意識を持っている。言い方を変えると、社会に対して不満に思っていることがあるから、社会変革に関心を持つわけだよね。確かに、社会保障や教育問題や貧困問題等々、世の中問題だらけ。でも一方で、誰か他の人が全部つくり変えた後だと、自分が関わって社会を良くしていく余地もなくなる。
そういう意味では、色々と変えていかなければならないことは多いけど、社会を良くすることに関わっていける、すごく良い時期に自分たちが生きているのだ、有り難いことなのだと捉えている人が多いね。
津村議員:
本当にとても有り難いことだよね。
#2 地盤無し! ビジネスパーソンから政治家へのチャレンジ
渡辺:
なぜ、津村君は日銀を辞めて、政治家を目指したの?東大法学部から日銀に入って、オックスフォード大MBAに留学という画に描いたようなエリートコースをまい進していたと思うのだけど。
津村議員:
留学から帰ってきて半年ほど経った2002年の春に、初めて自分から政治家に会いに行ったんだ。そのお一人が江田五月さんだった。
そのとき何を思っていたかと言うと、自分たちの世代は、親の世代とは全然違う世代だなと。今、世の中は大きく変わっているなということだった。
一つ目は、先ほどのような世襲に関する話だね。貧しい家庭に育ったとしても、意志と能力があれば、教育を受けることができ、ビジネスや政治のリーダーになることができる。
二つ目は、多様な生き方、多様な価値観というものを認め合おうじゃないかという大きな価値観の変化。例えば、転職や離婚などは、本人の思いは別として、昔はそれだけで世間からネガティブに見られる面があったけど、それも大きく変わったよね。
楽天の三木谷さん、サイバーエージェントの藤田さん、ライブドアの堀江さんなど起業家として社会に大きな影響を与えている彼らは、僕らとほぼ同世代。スポーツでも野茂選手やイチロー選手がメジャーリーグへの道を切り拓いた。
今では、当たり前になったけれども、僕らのちょっと上、ちょっと下の世代がいろんな垣根を取り払ったと思う。
その世代の一人として、自分が何か垣根を取り払って飛び込んでいけるものを考えていたんだ。それをしないで、将来自分の子供の世代とか、孫の世代から見て、自分の世代の特性を活かせてない、あんまり頑張らなかったおじいちゃんになってしまうのは嫌だったんだ。そういう時代感覚みたいなものを意識していたよね。
渡辺:
なるほど。時代の流れ、チャンスを活かすべきじゃないかという。
津村議員:
うん。もともとすごく政治には関心があったし。
渡辺:
いつぐらいから関心あったの?
津村議員:
政治そのものには小学校、中学校の頃から、親と政治の話をするような、ちょっとマセガキで(一同笑)。だけど、自分が政治家になるという発想は30歳になるまではなかった。当時の僕は官僚になるか、大企業でその業界を発展させるかというイメージを持って大学に行っていた。
それが、留学先のイギリスで、普通の若い学生たちが政治家をすごくリスペクトしながら、政治について熱心に話をしているという様子を目の当たりにした。政治が身近なものになっていると感じたね。彼らにとって、政治は世襲社会ではないからね。
渡辺:
留学して、海外の政治家の存在感を感じたというのも大きかったんだね。
津村議員:
うん。日本の方が、むしろ変わった国なんだなということを感じた。
ちょうど、自民党の小泉さんが「自民党をぶっ壊す」と言ってたくさん新しい仲間を集めたし、それに対抗するために民主党が新しい「公募」というのを本格的に導入しはじめた。そういう制度的な変化もあったんだ。
僕の心境の変化もあったし、時代の変化もあったけれど、制度の改革もちょうど始まった時期だったんだよね。具体的には政党交付金制度とか、小選挙区制度とか、自分で政治資金を用意しなくても、公認候補には党が1500~2000万円のお金を出してくれるという制度が出来た。
渡辺:
なるほど。それで、「もう、このタイミングで行くか!」と踏ん切りをつけたんだ。
津村議員:
うん。
渡辺:
それでも、いわゆる超エリートコースを歩んでいたわけじゃない。津村君の書籍にも出てきたけど、ご両親からは結構反対があったんだよね。
津村議員:
強烈な反対だった。民主党の公募に「落ちろ、落ちろ」とお百度参りされたからね(一同笑)。
渡辺:
凄いよね(笑)。振り返ってみると、僕も新卒の時から毎回親には反対されているなあ。僕は新卒でシンクタンクの戦略コンサル部門に入ったのだけど、親は僕が当然銀行に行くものだと思っていた。コンサルなんて怪しいと猛反対されたね。
それから、5年経ってベンチャー企業へ転職すると言ったときも、もの凄く反対されたし、起業するときも当然反対された。「よかったね」と親に思ってもらえるようになったのは、ここ数年なんじゃないかな。
でも、それで良いと言うか、異なる時代を生きてきたのだから、親が心配してくれて反対してくれるのは当然なのだと思う。やろうとしていることを無理に理解してもらおうとするのではなく、自分の思い描いていたことにチャレンジして、頑張って、最後は「お陰様で家族みんな元気に暮らしています」という姿で伝えて、安心してもらえば良いんじゃないかと思う。お互いに風変わりなキャリアを歩むと、そういう感じじゃないかな(笑)。
津村議員:
学生時代によくドラマとかで、親の反対を押し切って結婚して、駆け落ちして、もうしばらく絶縁だったけど、孫ができて3年か4年したらようやく認めてもらえたみたいな、そういうストーリーがあるけれど、ある意味同じことをやっているんだよね(笑)。
#3 政治家が失脚する意外な理由とは?
渡辺:
実際に政治家になってみると、どんな感じなの?
津村議員:
やっぱり、どんな仕事でも同じだと思うけれど、政治家に「なる」ということと「続ける」ということは全く違うよね。「なる」時の0を1にする労力とか勇気とかは、やっぱりすごいものだよね。もう一回やれと言われても、無理だなと思う位に。
一方で、「続ける」ということは、そういう瞬発力的な、短期間だからこそできる馬鹿力とは違う色々な要素が出てくる。
お陰様で政治家になって12年が過ぎたけど、例えば自分の心身の安定のことも影響があるよね。人間だから、メンタルも含めて頑張れる時と頑張れない時があるし、体力的なところが気になる時もあるし、親の健康状態とかも関係する。
渡辺:
そうだよね。特に44、45歳にもなるとね。
津村議員:
あとはやっぱり秘書さんの存在が大きいね。一緒に頑張ってくれている公設秘書の3人がみんな10年選手だっていうのは、僕にとってものすごく大きな財産だと思う。支援者の方や同僚議員や霞ヶ関の方々との関係というのも、僕だけでは到底維持出来ない。それを秘書さんたちが長い時間をかけながら丁寧にやってくれているんだ。
渡辺:
お金に関することも政治はいろいろありそうだよね。
津村議員:
そう、そう。政治家は支持率で浮き沈みがある。その上、決して日本全体の経済が大きくなっているとは言えない中で、政治家のお給料だけが増えるはずもない。むしろ削減傾向にあるよね。
そうなると、折角長く務めてくれている秘書さんたちのお給料も、残念ながら上げることが難しい面がある。
そうは言っても、政治家はいろいろな方々と長い時間をかけて信頼を築いていくことが大切だからね。継続していくのは、なかなか大変だよね。
渡辺:
そうか…。どんな仕事も続けるのは大変だけど、政治家には特にそれを感じるよね。何年かに一回落ちるかもしれない選挙という大勝負が来る。そこは、大企業のビジネスパーソンと違うところだよね。
津村議員:
そうだね。民主党政権の頃は、ざっくりで言うと、年間でだいたい5000万円程度の事務所経費があって、収入、支出ともに5000万円規模の政治活動をしていた。事務所を借りる、秘書さんを10人雇う、印刷物を刷って、ポスターも刷って、発信もするというのが年間5000万のボリュームだった時があった。
ところが民主党政権が転落して、今は4000万円くらいになって、1000万円くらい減ってしまった。票と一緒に、カンパも減っちゃったんだよね。
渡辺:
それは大変だ。
津村議員:
このように、収入源の2割が突然なくなるとかいうこともあって、結構浮き沈みがある。
貯金をして蓄えておけばいいということではあるのだけれど、やはり選挙の時には全力投球したいというのもあるからね。貯金をする余裕はなかなか出てこない。
渡辺:
余力を残して落ちたら意味がない。
津村議員:
ビジネスの世界でも、もちろんそういうことはあると思っているよ。
だけど、政治家になって、こういう問題と直面するということは、政治家になる前には思い及ばなかった部分だよね(笑)。
渡辺:
政治家の仕事って、ルールメイキングといういわゆる政治家らしい仕事もあるわけだけど、一方で「事務所の経営者」という側面もかなりあるというわけだ。
津村議員:
政治家が失脚する代表的なパターンというのは二つあると思う。
一つは自分でひどい失言や政策的な失敗をされる方。でもこれはよほど注目される方じゃないと、そもそもメディアに取り上げてもらえない(笑)。
もう一つは、事務所をうまく切り盛りできなくて失脚する方。実はこういう政治家はたくさんいるんだ。秘書さんが居着かないと、後援会も作れないから、固定票が作れない。そういう風頼みの選挙だと二回も三回も連続では勝てない。かなり残念なケースでは、秘書さんがトラブルで辞めた時に、「あの人こんなずるいことをしていますよ」と外で悪口を言われるというのもある。
さらに言うと、甘利さんのケースみたいに、秘書さんに両目つむって任せていたりすると、政治家が全く知らない悪いことをやっていて、びっくりということもある。
渡辺:
なるほどね。そういう点は、起業家ととても似ていると思うな。
僕も今の会社を立ち上げて8年経つのだけれど、採用や人材育成によって組織内の体制を整えることがとても重要なのだと思っている。
現場の業務や社内の細かいことに、社長が配慮しなくても大丈夫なように組織を育てていく。これはとても大変なことだけど、そういう体制を早く整えないと、社長がいつまでも外向けの活動や未来のことに十分なパワーを割けないからかえって効率が悪い。
でも、目先の業績が気になるので、売上をつくる、マーケティングを行なうといった外向きの仕事ばかりに集中しちゃっている起業家が少なくない・・・。組織づくりで失敗してうまく行かなくなる政治家が多いという話は、とても納得感があるね。
#4 政治家は日々何をしているのか?
渡辺:
国会議員は、普段、どのような仕事をしているの?
津村議員:
僕は国会議員というのは二つの別の仕事が組み合わさったような仕事だと思っているんだ。
一つは、東京で官僚、経済界の方々、学者の方々と会って、いわば国の最高の叡智を集めて理論的に、国際的に通用する次の政策について考えること。税制だったり、社会保障だったり、国土交通、安全保障・外交、財政的な話などというすごく大きなテーマとか、アカデミックな話を扱う。テレビに出てくる政治家の側面だね。
もう一つは、毎週3日間くらいは地元に戻って行なう活動。地元の運動会、お神輿担ぎ、豆まき、消防団の夜警周り、裸祭りなどに参加するし、時間があけば1軒1軒インターホンで訪ねる。1日に100軒とかね。実はこれがすごく意味のあることなんだ。
渡辺:
なるほど。選挙期間でなくても、地元で行なっている活動が多いんだね。
津村議員:
地元選挙区でいろいろな方々の聞き役として、みなさんの想いやニーズをインプットする。それを新幹線で運んで、東京でアウトプットする。地元ではこういう声がありますよ、霞ヶ関のこういう考えは机上の空論ですよ、現実には制度と制度にこういう狭間がありますよとか。地元にいるからこそ見えてくる情報を運んでくる。
そして、逆に東京でどういう議論を経て政策に昇華されたかを地元で説明するということもやる。TPPや日米安保を含めて、トップレベルの国政で決まったこと、議論されたことを今度は新幹線に乗って岡山に帰って、小さな座談会、集会で伝えるのね。テレビでは、TPPはこうなった、日米同盟はこうなった、尖閣はこうなったと言っているけれど、実はそれはそれぞれ別の話ではなく、根っこは一つだと分かってもらうとかね。
渡辺:
国民と国政の間をつなぎ、実態や背景に関する理解を双方に促していくわけだ。
津村議員:
そういう意味では、僕たちはいわば情報のハブだったり、人間関係のハブだったりでなければいけない。単に演説が上手だとか、非常に頭が良くて論理的に物事を言うとか、テレビ受けがいいというのとは違うんだよね。テレビで演説が上手い人と、座談会でみんなをうならせる人はやっぱりちょっと違う。実際に会わないと分からないことがお互いに沢山ある。
渡辺:
だから週3日も地元に戻っているんだね。そうなると、やはりとても忙しいのかな?政治家は、分刻みのスケジュールというイメージがあるけれど。
津村議員:
政治家は自営業タイプの仕事なので、大組織のサラリーマン時代とは全く生活のリズムが違っているんだよね。サラリーマンの時は、勤務時間中の緊張感というのは大きい気がする。例えばすぐ背中の後ろには上司がいて、パソコンの画面も見られていて、席を外すとあいつどこいったっていう話になるし、お昼ごはんも1時間以上はなかなか食べられない。日中に友だちと会うなんて論外だしね。そういう大変さがあった。
政治家は、365日24時間何が起きてもおかしくない。真夜中に電話かかってきても対応しなきゃいけない。そもそも平日の日中より、夜、真夜中、土日の方が参加しなければいけない用事が多い。ON/OFFがはっきりしないという意味において気ぜわしさはあるけれど、ある程度自分でスケジュールのコントロールは出来る。
#5 政治とは理想と現実をつなぐ技術
渡辺:
社会変革を主体的に行なうためにも、党内で権限を持ったり、高いポジションについたりすることは大切だよね。どのようにすると、そういうポジションにつけるの?
津村議員:
そうだね。そこは営業成績みたいに、数字で決まるものではないから、何をやると良いのかが分かりにくい。マニュアルがない世界だね。
政治家には、本当にいろいろなモデルケースがあるんだよね。この分野ならあの人だというスペシャリストタイプを目指すのも一つ。
一方で、得意分野ははっきりしないけれど、何でも幅広くこなす安心感あるタイプもいる。例えば後者のタイプで僕がよく尊敬する政治家として名前を出すのは与謝野さんだし、谷垣さんもそうだよね。経済も得意だし、外交安全保障とか、科学技術とか、それぞれ得意な分野を持っているけれど、何でも幅広く対応できる。
一方、安倍さんや石破さんは外交や憲法といったテーマがすごくお得意なスペシャリストとして、そこで成功している。
渡辺:
それぞれにあり得ると。
津村議員:
あと、党内で認められていく方法としては、「あの人はみんなのコンセンサスをつくるのがうまい」というのもあるよね。みんなの意見をちゃんと聞くとか、人を怒らせないとかね。
渡辺:
分かるなあ。僕自身も自社の重要なポジションに、誰を抜擢するかを考える際に、「この領域は彼が詳しいから」という時もあるけれど、「みんなを上手くまとめてくれるだろう」ということで任せることもよくある。こういう安心感は実はとても大切だよね。
政治家になってみて、予想外に苦労したのはどんなこと?
津村議員:
一つは先ほどのマネージメントかな。そこがおそらく世間の人にはあまり知られていないけど、やってみると苦労する部分ですね。先ほどの心身の健康、周囲のチームのメンテナンス、ガバナンスなど、予想外に時間とパワーがかかるよね。
あとは、やはり選挙区は土地で結びついているということ。これは政治家の中でも小選挙区制度になった最近の衆議院議員のより強い特性だと思う。どこも40万人位の人口の選挙区なんだよね。その40万人の人達と僕は切っても切れない関係にある。そこで51%の人に応援してもらわないと勝てないからね。
そうなると「そんなこと言うなら君とは付き合わないよ」という選択は政治家にはない。土地でつながっているから、人間関係を切ったり貼ったりできない。ビジネスであれば、この分野は切ってこの分野で行きますって言うことがあると思うけれど。
渡辺:
なるほど。確かに。
津村議員:
ある意味で、逃げられないという感じがある。もちろん、40万人の声を全部足して40万で割るようなことが政治ではないので、ある程度何かを捨てることは実はあるのだけれども、できるだけ自分の政策的なキャパとか、心のキャパを広げていかないといけないのは確か。自分の引き出しの数をどんどん増やし続けて行かなきゃいけない仕事だと思う。
一方で、引き出しが増えた分ちゃんと整理整頓しないと、はっちゃけてしまうので、自分の軸もしっかりと持っていなければならない。そこのバランスは難しいね。
渡辺:
そうだよね。全員の意見を満たすことは不可能だし、それでは矛盾もたくさん出てしまう。そうなると、みんなの気持ちやニーズを理解した上で、自分の信念やポリシーをつくって、そこにみんなを巻き込んで、ファンになってもらうという感覚なのかな。
津村議員:
僕が政治家を目指すときに、江田五月さんから、「政治とは理想と現実をつなぐ技術だ」と言われたのをよく覚えている。技術というとちょっと狭い印象に聞こえるかも知れないけど。
政治家にとって、自分の中に理想を持っていることはとても大切なことだと思う。単に次の選挙で受かるために、消費税を下げると言っておこうとかじゃなくてね。
僕は自分が政治家であるうちに消費税は15%にしたいとか、年金の受給開始年齢を平均して70歳まで引き上げて、60代も70代も生きがいを持って働ける社会にしていきたい。これだけ平均寿命は伸びているんだからね。その分旧来型の社会保障よりも柔軟にして、基本的にはより長く働いて、それが生きがいにつながっていくという未来像をサポートしたいと考えている。
でも、都度都度の場面で言えば、別の判断もある。例えば、いま景気が悪くなっているので来年の消費税増税はしない方が良いかも知れないなど。
理想を持つということと、現実に根ざすということのバランスが凄く重要だと思う。理想ばかり言っている人はやっぱりコンセンサスメイキングに失敗する。現実ばかり言っている人は短期的なコンセンサスメイキングには成功するかもしれないけれど、やはり持続して実力を維持することは出来ない。この二つを併せ持つということが苦労でもあり、政治家に求められているものかなと。
渡辺:
そこが苦労でもあり、難しいからこそ面白いところだよね。
津村議員:
うん。面白いね。
渡辺:
今の話は、社会変革というテーマ全体にとってとても大切なことだと思う。社会起業やNPOをつくる際にも、結局この話がかかわってくる。理想論だけ言っていて、経済面が回らないと、持続可能な変革は起こせない。一方で目先の業績に追われて、理想をあきらめる企業も少なくない。理想と現実を両立させることをあきらめないのが、政治にしても、社会起業家にしても、あるいは官僚にしても、社会を本気で変革しようとしている人に共通するところなのかもしれないね。
#6 政治家を目指すあなたが、はじめにすべきこととは?
渡辺:
政治家になるためにはどのような方法があるのかな?津村君の書籍では、①秘書になる、②政党のスタッフになる、③市議会議員を目指す、④公募を受けると4つ挙げていたよね。
津村議員:
そうだね。基本的にそれは変わっていないけれども、公募は非常に道が開けてきているし、その人のキャリアとか年齢とか住んでいる地域によって、どのような方法が良いかは千差万別のところもあるけどね。
僕が政治家に興味ある方に一番勧めたいのは、まず現役の政治家に会って、いろいろと話をすること。僕も立候補する前に、自民党の方にもお会いさせてもらったし、民主党の方にもお会いしたね。逆に僕も議員になった後、年に何人かはそういう方とお会いしている。「将来政治家になりたいです」という若者に、面会を申し込まれたら、たとえ見ず知らずの人でも会う政治家は多いと思うよ。
渡辺:
ええ!? そうなの。それはかなり意外だね。敷居が高く見えていたけど。
津村議員:
もちろん、政治家も暇ではないので、僕もきちんと手紙も書いたし、自分のことが分かるようなことをきちんと書く。そのあたりは見られるとは思うけれどもね。
政治への関わり方は、いきなりその政治家の後継者にならなくても、その人のお手伝いをするとか、その人の地元での市議会、県議会の議員になるという道もある。
あるいは衆議院議員であれば一緒にパートナーとなる参議院議員を探しているし、参議院議員も自分のパートナーとしての衆議院議員を同じ地域で探しているしね。
渡辺:
それってどういうことなの?
津村議員:
人数の比率は違うけれども、同じ地域で衆議院と参議院がかぶっているよね。例えば、ある選挙区で、民主党の衆議院議員が強いと、民主党を応援しようと言う雰囲気が生まれるので、同選挙区の参議院議員も当選しやすくなるという関係がある。ちょうど今、僕も同じ選挙区の新人の参議院議員候補を一生懸命に応援している。
渡辺:
そういう関係なんだね。優秀な人に同じ選挙区に来て欲しいというわけだ。
津村議員:
優秀な人にはぜひ来て欲しい。だから、政治家は常にリクルートしている(笑)。
そもそも政治家は仲間を増やすのが一番基本的な営みなんだ。支援者も増やしたいけど、同僚議員についても同じなんだよね。たとえ、自分が相談に乗った相手が、選挙区のパートナーにならなかったとしても、その人が議員になる道を開いたとなれば、何らかの恩義を感じてくれる。自分に恩義を感じてくれている議員さんが他にもう一人いるということは、自分が将来何か大きな仕事をしたいときに助けになる。ここはすごく大きなところだね。
渡辺:
なるほどなあ。そういうことか。
津村議員:
政治家はもちろん自分の活動資金を増やしたいというのはあるけれども、活動資金というのはもともと自分の懐に入るものではないわけだよね。その活動資金を増やして何がやりたいかというと選挙に勝つこと、仲間を増やすことなので、結局、政治家はお金集め以上に人集めのほうに関心がある。お金集めというのは人集めのための資金であり、手段に過ぎないからね。政治家はお金のことを考えているというのは嘘じゃないけれど(笑)、それ以上に人集めのことを考えている。
渡辺:
それはとても面白いね。まさにこの記事を読まれているような優秀な方で、政治家になることに真剣に関心があるという人であれば、軽い気持ちでは困るけれど、津村君に相談に行っても良いということなの?
津村議員:
うん、もちろん!僕が東京にいるときは、自分の予定をコントロールしやすいしね。僕に会いたいと言ってくれる人が、たとえばメールやファックスやFacebookで、それなりにきちんとした形で連絡取って来てもらえれば、それはもう喜んで。衆議院の候補者は100ヶ所くらい決まっていないところがあるし、3年後の県議会、市議会の選挙では、全国で何百人という新人を発掘しなきゃいけないしね。
渡辺:
ところで、政治家に向いている人ってどういう人なのかな?多くの人を惹きつける必要があるので、かなり魅力的な人でないと難しい気もするけど。
津村議員:
政治は多様なものでなければいけないから、バックグラウンドは極端に言ったら何でもありだと思う。
ただ、政治家に「なる」ことが目的ではないので、少なくとも10年続ける、さらに大きな仕事をするには20年は必要だと思うので、それだけ政治っていうものに対して想いがあることが大切だよね。たくさんの逆風も吹くし、地域ではいろいろなトラブルの処理係だしね。心身ともに健康で長く続けるという強い意志を持った人であることは大切かな。
「政治家を天命にできる人というのは、堅い木の板を弱い布のみでくり抜く作業を根気強く続けられる強い意志のある人だ。」というようなマックス・ウェーバーの話がある。そんなに簡単に穴はあかないよ、それでも根気強く、いつかはあくんだと言ってやれる人が政治家にむいていると。
それともう一つは、人を好きになるのが得意であることも大切だね。たくさんの人と会う仕事なので、それが嫌だったらそれは苦痛だよね。もちろん、人見知りで最初は緊張しても、打ち解けて仲良くなっていくことを楽しめる人であれば大丈夫。友だちが多い人であるとか、あるいは友だちが増えることを喜びとする人だとか、自分と縁のあった色んなタイプの人を好きになるのが得意な人とか、人を嫌いになるよりも好きになる人だね。
#7 宇宙開発、DNA情報、クローン… 驚異の科学技術で社会の枠組みが変わる
渡辺:
津村君は今後どのような活動をしていくつもりなのかな?
津村議員:
僕自身は日銀出身ということもあり、まずはマクロ経済、日本の景気を良くしていきたい。
そして、一つの仕事を一人の人間がやれるのは30年位が一つの単位だと思っているので、自分が残すあとの20年間で、消費税15%、年金受給平均70歳といった、なかなか受け入れてもらえない事も含めて、時間をかけて取り組んでいきたいと思っている。
たとえば党首クラスのトップリーダーの政治家たちは、次の選挙の責任者にあたる人たちだから、どうしてもすぐに成果が出ることに力を入れがちだよね。僕達は今のトップリーダーより一世代若い世代なので、時間のかかる政策にも取り組みたい。科学技術であるとか、宇宙開発だとか。
あとは人の生き方の問題。安楽死尊厳死の問題だとか。あとはDNA情報を人間はどこまで、自分が知るようにするのか、管理するのかとか。
そうすることで将来の予防医学というのはすごく読めてくるけれども、でも自分の系図も分かってしまうわけでしょう。そうするとそりゃあ、三代四代遡ると本当のお父さんとお母さんが違ったりするということが出てくる可能性があるから、世の中としてそういうものにどう耐えていくのかとか。個人情報の管理とか。
でもそのDNA情報の良い部分だけをうまく使えば、医療費の削減だとか、健康長寿につながっていくわけで、そういうちょっと未来的なテーマにも関わっていきたいなと思っているんだ。
渡辺:
人工知能の登場もまさにそうだけど、人の生き方が劇的に変わる科学技術が登場してきているもんね。そうか、今後はそういうテーマを政治家として扱っていくんだね。
津村議員:
フランスの例などもあるけれど、これからは婚姻制度とか家族のあり方というもの自体がLGBTも含めて多様化してくる。
例えば、シングルマザーの方が、既に亡くなっている方の保存されている精子で子供を作りたいということを考えたとする。それは故人の意志と合致をしているというケースにそれを認めてよいかどうかとか、あるいは故人の意志が確認できないときにはどうするのかとか。今の常識としてはありえないと思うけれども。
あとは自分のクローンを作ることについてどう思うかというのもある。子供が作れないのであれば、せめて自分のクローンをつくる権利はあるんじゃないかとかね。そんなモヤモヤしちゃうようなテーマが続々と起きてくることだってありうる。そういう近未来のことを常に意識をして仕事をしたいと思っているんだ。
渡辺:
いま、人間とは何か、死あるいは生とは何か、といった哲学的なテーマについて、人類が向き合わなければならない驚異的な科学技術が登場してきている。
僕は経営者、あるいはキャリアコンサルタントという立場から、こういう科学技術の影響を考えているけど、津村君は政治家として、こういったテーマを扱っていくんだね。とても興味深い。
これも、この時代に生きている意味なのかもね。
津村議員:
あと、僕の事務所では、スタッフを募集中です。政治家自体を目指さなかったとしても、やはり政治家の事務所で働くのに向いている人というのは、人を好きになるのが得意な方だと思う。「民主党は嘘つきだ」とか、スタッフからみれば自分のせいじゃないことでお叱りを受けることも多いからね。そういう意味では心身ともにタフじゃないといけない。
そして、日本のため、世界のために自分の仕事がつながっているんだということを意識できて、誇りに思える方にぜひ応募して頂きたいですね。
渡辺:
津村君の事務所で経験を積んで、将来、政治家になるという道もあるんだよね?
津村議員:
もちろん。既にそういう人が2、3人います。これからもそういう人は増えて欲しいと思っているので、政治家見習いとして働いてもらえる方がいたら大歓迎です。
それと、政治家志望でない方も歓迎です。僕の事務所の10年続いているメンバーはみんな政治家志望ではないので、どちらのタイプもいてくれたらいいなと思っています。
渡辺:
本日は、長時間ありがとうございました。
津村議員:
こちらこそ、ありがとうございました。
編集後記
津村議員と弊社渡辺には、「社会変革」を仕事にするということ以外にも、いくつかの共通点を見出すことができるように思います。
一つめは、時代の流れをとらえ、キャリアを能動的に選択したことです。
世襲中心だった政治家への道が、広範囲の人々に対して開きはじめた機会を察知し、思い切ってキャリアチェンジをした津村議員。
また、渡辺は、従来の価値観に縛られることなく、段階的にキャリア設計を行い、望む事業での起業を果たしました。
二つめは、「自分が好きなこと」を仕事にする生き方をしていることです。
時代とともに、価値観やブランドは移り変わります。今、人気がある業界でも、10年後も同じ状況が続いている保証はありません。
そのようなブランドや安定といったことに縛られず、好きなこと、本当に意義を感じていることを仕事にしているからこそ、困難なことも頑張れるのだと感じました。
三つめは、新しい時代への高い関心を持ち続けているということです。
起業家が、新しいものへ高い関心を持っているのは珍しくはありません。
しかし、古く、硬直化したイメージもある政治の世界において、津村議員が最先端の科学技術の動向を把握し、その影響について深く考えていらっしゃったのがとても印象的でした。
上述の三つの共通点は、モノのとらえ方に関することであり、決して真似ることが出来ないといった類のものではないように思います。
政治家へのキャリアも含めて、現代は幅広い職業を現実的な選択肢として検討できる時代です。
発達した人材市場とキャリア戦略を活用することで、「自分が好きなこと」を仕事にするチャンスは飛躍的に広がります。
今回の対談は、このような時代の特徴を活かし、自分の子供世代や孫世代に胸を張れるような仕事をしていく上でのヒントが得られる貴重な機会となりました。
津村議員の著書紹介
津村 啓介 / 林 芳正 著 (中公新書)
国会議員の仕事とはどのようなものだろうか、言うまでもなく、国会議員は私たち有権者が選挙で投票することによって存在している。では、私たちは彼らに何を期待し、何を託しているのだろうか。そこに齟齬はないか。
本書は、自民党と民主党(当時)、世襲と公募、対照的な二人の現役国会議員がその来歴と行動を具体的に記すことにより、政治家の仕事とは何か、そして、混迷する現代日本を変えていくために何が必要かを明らかにする試みである。(中央公論新社の新書紹介より)
1971年、岡山県生まれ。東京大学法学部(政治コース)卒。1994年、日本銀行入行。在職中にオックスフォード大学経営学修士(MBA)取得。2003年、初当選。2007年、世界経済フォーラムより「世界の若手リーダー250人」に選出。民主党政権時代には、内閣府大臣政務官として、新設の国家戦略室を担当。現在、国会では衆議院国土交通委員会、科学技術・イノベーション推進特別委員会に所属。
一橋大学商学部卒業。三和総合研究所 戦略コンサルティング部門を経て、2008年、コンコードエグゼクティブグループを設立。日本ヘッドハンター大賞MVP受賞。東京大学「未来をつくるキャリアの授業」コースディレクター。著書『ビジネスエリートへのキャリア戦略』(ダイヤモンド社)など。