INSPIRE2016 スペシャルセッション『イノベーターへのキャリア戦略』
地域の未来をデザインする地方創生イノベーターカンファレンス「INSPIRE 2016」(2016年12月3日(土) 於ヒカリエホールB)、スペシャルセッション「イノベーターへのキャリア戦略」に弊社代表の渡辺が登壇致しました。
当日の会場には、登壇されたイノベーターのように地方創生をリードしたいという志高い方々が数多く参加されていました。しかしながら、イノベーターになるために、「どのようにキャリアを設計したらよいのか?」というキャリア戦略について、世間ではほとんど語られていません。
このスペシャルセッションでは、「イノベーターへのキャリア戦略」と題して、オープンイノベーションをリードする実践者への道を切り開く、戦略的なキャリア設計法についてお話し致しました。その全容をご紹介致します。
※テキスト化の際に、よりわかりやすくお伝えするために、一部に加筆修正を加えております。
Index
#1 オープニング
谷中:
ここからは、地方創生イノベータープラットフォーム INSPIRE 代表理事の谷中修吾が進行を務めさせていただきます。本日、キープレーヤーとして各地でご活躍されているイノベーターの皆さんの話を聞いて、「私もあんなふうに活動してみたいな」「あの人とコラボしてみたいな」という方がきっと見つかったのではないでしょうか。
では、イノベーターを目指そうと思ったとき、具体的にはどのようなキャリアを歩めばいいのか――これは非常に重要なトピックだと思います。
そこで、このオープンイノベーション編の最後を締めくくるスペシャルセッションでは、「まちづくり・地方創生などで活躍するソーシャルイノベーターへのキャリア戦略」と題してお届けします。
ご登場いただくのは、コンコードエグゼクティブグループの渡辺秀和社長です。
コンコードエグゼクティブグループは起業家やソーシャルイノベーターのキャリア支援など、「未来をつくるビジネスリーダー」のキャリア設計をサポートする転職エージェントさんです。
ご登壇いただく渡辺社長は、日本ヘッドハンター大賞MVPを受賞しているキャリア設計のプロです。
戦略コンサルタント、外資系エグゼクティブ、起業家など、これまで1000人を超えるキャリアチェンジを支援してきた実績があり、コンサル業界では日本最高のキャリアコンサルタントとも言われています。
本日は、地方創生やまちづくりを始めとしたソーシャルな領域で活躍するための戦略的なキャリア設計についてお話をいただきたいと思います。
ではご紹介します。コンコードエグゼクティブグループ渡辺秀和社長です。拍手でお迎えください。
(会場拍手)
谷中:
オープンイノベーション編ということで、ここまで多くのユニークな方に登壇いただきましたが、ご感想はいかがでしょうか。
渡辺:
イノベーターの方々の熱量が本当にすごいですね。
昨年、『まちてん』にも登壇させていただき、その時も大変刺激を受けました。
今回はVRやドローンのようなハイテクを駆使したソーシャルイノベーターの皆さんが次々と登場されていて、更なる刺激となりました。
谷中:
色々なバックグラウンドをお持ちの方々がいらっしゃいましたね。
渡辺:
そうですね。皆さん様々な領域で活躍されていますが、今まで積まれてきた経験の中で感じたテーマや課題にフォーカスし、チャレンジされてきている点は共通しているなと思いました。
例えば、アドワールの岡本さんであれば、すでにデジタルクリエーターとしてのご経験があります。
その上で、「日本のデジタルクリエーターを取り巻く環境をもっと良くしたい」と考え、デジタルクリエーターのためのプラットフォームを作ろうとチャレンジされています。
また、ネットベンチャーの経験をいかしながら防災という観点で社会変革を仕掛けている田中さん、広告代理店におけるクリエーターとしてのご経験をいかしながら地方創生を仕掛けている澤田さんも同様です。
皆さん過去のご経験を実に上手くいかしながら取り組まれているな、ということを強く感じました。
#2 イノベーター達の軌跡―過去の経験を活かして社会変革に挑む
谷中:
「経験」というのはキャリア設計の上で重要になるのでしょうか。
渡辺:
はい。絵空事や単なるビジョンだけでは、実際に組織をリードしたり、社会を変えていったりするのは難しいです。
私も様々な領域のソーシャルイノベーターや起業家とお会いしていますが、多くの方が「ビジョナリスト」であると同時に「リアリスト」です。
現実の社会を変えていくため、地に足のついたスキルやご経験をいかしながら、今まで長年取り組んできた領域で改革に取り組んでいる方が多いと思います。
谷中:
過去の経験をいかしながら社会変革に挑む――具体的には、どのような事例があるのでしょうか。
渡辺:
本日は、3名のソーシャルイノベーターのキャリア戦略事例をご紹介しようと思います。
まずは、会場にお集まりの皆さんもよくご存じの方だと思いますが、NPO法人クロスフィールズの小沼さんですね。
実は彼、大学のラクロス部の後輩なのです(笑)。
彼は大学を卒業した後、一般の企業には勤めず青年海外協力隊に飛び込んで、新興国支援に携わっていました。
その後、外資系コンサルティングファームであるマッキンゼーに転職をして、経営のスキルを身につけた後にクロスフィールズを立ち上げられました。
クロスフィールズは、企業に勤めるビジネスパーソンの方を研修として新興国の支援活動に派遣し、現地への貢献を通じて成長してもらうという事業を展開しているNPOです。
当団体の活動は「留職」というキーワードで非常に有名になっていますね。
その次は、Voyaginという会社の代表・高橋さんです。
Voyaginは、海外旅行者と現地の方を繋ぎ合わせるネットサービスを展開している会社です。
高橋さんは大学生の時、旅行を通じて海外経験を沢山積んでいらっしゃったようです。
新卒でコンサルティングファームに入って経営のスキルを身につけた後、C2Cの領域におけるネットビジネスの立ち上げに参画されています。
その後、海外の人と現地の人を繋ぐという、彼がずっと関心を持っていたことをVoyaginというネットビジネスによって実現しています。
高橋さんのご経験が見事につなぎ合わされていると思います
谷中:
Voyaginはインバウンドでもかなり注目を浴びていますね。
渡辺:
そうですね。今非常に注目を浴びています。
最後は、石徹白(いとしろ)というところでご活躍されている平野さんです。谷中さんの以前の同僚でもいらっしゃいますね。
谷中:
はい。小水力発電によって全国区でも著名になりましたね。
渡辺:
平野さんは大学時代にまちづくりや都市工学を勉強されていました。
卒業後、商業施設の開発をプロデュースする会社に新卒で入社し、経験を積まれていたところ、「やはり経営のことが分からないとまちおこしは難しい」ということに気づかれたそうです。
そこで谷中さんと同じくブーズという戦略コンサルティングファームに入られて、その後今の石徹白における活動をスタートされています。
#3 キャリアの階段をつくる―イノベーターになるために必要な経験とは?
谷中:
どの方も、いきなりソーシャル領域に飛び出すのではなく、しっかりとプロセスを踏んだ戦略的なキャリアを積まれていますね。
渡辺:
そうなのです。本日、皆さんにお伝えしたいと思っていることは、まさにこの点にあります。
会場の皆さんの中には、すでにソーシャルイノベーターとして活躍されている、あるいは何らかの事業を立ち上げられているという方もいらっしゃると思います。
一方で、本日登壇されたイノベーターの方々を見て、「いつかあのような形で活躍したい」と思うけれど、まだその1歩が踏み出せてない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
将来ソーシャルイノベーターになりたいけれど、「今の自分の実力では厳しいな」、「実際にやるとなると怖いな」と思われる方は少なくないはずです。
そのような場合、うっかりするとこのような2つパターンに陥ってしまいます。
1つが、「やっぱり無理」とか「怖い」と、ご自身の夢を諦めてしまうパターン。
もう1つが、「悩んでないで、とにかくやるしかないでしょ」と言って、一か八かでやってしまうというパターン。
「要はやるかやらないかだ」という気合い系の論調も最近は多いですからね(笑)。
このような極端な2つのパターンがよく見られますが、実は第3の道があるのです。
それが、「キャリアの階段」をつくるという方法です。
いきなりゴールを目指すのではなく、必要なスキル・経験・ネットワークを得られるステップを挟む。
それからご自身の夢にチャレンジすれば、それほどハイリスクなことではないのです。
今日登壇されている皆さんも、事業運営やマーケティングの経験など、イノベーターとして必要な経験を過去に積んで、それからチャレンジされていましたよね。
谷中:
本日ご登壇頂いたイノベーターの皆さんは、ほぼ近い領域のバックグラウンドをお持ちでしたね。
渡辺:
そうなのです。現在につながるご経験を積まれているのです。
また、傾向としては、30~40代ぐらいのイノベーターの方は、キャリアの階段としてコンサルティングファームでの経験を積まれた方が多いです。
最近ですと、ネットビジネスを経てからイノベーターとしてのキャリアをスタートされる若い方が増えています。
ネットビジネスは社会を変革するのに非常に有効ですからね。
谷中:
イノベーターとして必要な経験を積むためには、転職ではなく、現職での社内異動による職種の変更などでも良いのでしょうか。
渡辺:
もし社内異動のようなチャンスがある会社であれば、わざわざ転職する必要はありません。
社内でイノベーターとして必要な経験を積んでいただいても勿論問題ありません。
今回挙げたお話は経営やマーケティングの仕事が中心でしたが、イノベーターに必要な経験は必ずしもそれらだけではありません。
この会場の中には、「もう事業企画経験は積んでいます」という方もいらっしゃると思います。
そのような場合、自分が挑戦しようと思っている領域の業界経験を積むという方法もあります。
例えば、今メーカーの経営企画にいるが、教育業界で何か改革を起こしたいと思っている場合、教育業界の経験を積んでからチャレンジするというような方法です。
業界経験があると、その業界内で事業を行った場合に、実際に何が起こるのかをよく分かった上でスタート出来ます。
幼児教育の事業をはじめた際に、生徒さんが何らかのトラブルに巻き込まれてしまったとします。
その場合、どのような法的なリスクがあって、どのように対処しなければいけないのか、といったことは業界経験が無い人からすると全く分からないわけですね。
ですが、教育業界で働いたことがある人からすれば、当然のノウハウだったりするわけです。
業界経験を得てから事業に挑戦すれば成功確率が高まりますし、安心して1歩を踏み出していくことができます。
谷中:
なるほど。企画やマーケティング系の経験だけに限らず、業界経験もキャリアの階段となり得るのですね。
渡辺:
はい、そうです。
#4 登る山を決める―キャリア設計の最初の1歩とは?
谷中:
それでは、最初の1歩はどうすれば良いのでしょうか。
渡辺:
まずは方向性を決めることです。
「キャリア設計」と聞くと、将来のプランをカッチリ決めることだと思い、「何歳までにこの仕事に就き、何歳にはこういうビジネスを起こす…」などと、固く考えてしまう方が少なくありません。
実は、そのように、カッチリ決めないほうが良いのです(笑)。
大事なのは、「どの山に登るのか」というおおよその方向性を決めることです。
教育改革や地方創生、海外支援など、一生をかけてやりたいという情熱を感じるものや心の琴線に触れるものがあると思います。
そのテーマが決まれば十分です。
あとは、実際にその山へ登りはじめ、その周辺で仕事をしていると、色々なことが見えてきます。
登山と一緒です。徐々に頂上が近づいてくると、「最終的なゴールとして、このような仕掛け方ならすごく面白いことができる」ということが見えてきます。
最終的なゴールのイメージは、頂上に近付かないと絶対に見えません。
麓から山頂を見上げて、「最終的なゴールのイメージが湧くまで山には登らない」と言っていたら、絶対にわからないのです。
そして、山に登り、時間が経てば天候も変わってくるように、私達を取り巻く環境も時間と共に変わっていきます。
まさに今日イノベーターの方々から話があったVRやドローンをはじめ、AIなどの最新技術によって、私達の生活や仕事の仕方は確実に変わっていきます。
そうすると、最終的に頂上で何をすれば良いのか、山頂付近でどちらの方角を見るのがよいか、ということも変わってくるのです。
最初の段階でカッチリとゴールを決めるのは、その意味でもあまり効果的ではないのです。
「10年後にVRでこういうことをやろう」と思っていても、その頃にはもっと別の新しい技術が出てきてVRは廃れてしまっているかもしれませんよね(笑)。
登る山を決めたら、臆さずに勇気を持って1歩ずつ登って行くことが大事です。
そうすれば、頂上に近づく中で自然と適切なゴールが見えてくると思います。
谷中:
方向性を決めるというのは、例えば地域×教育といった決め方でもOKということでしょうか。
渡辺:
まさにそのようにざっくりとしたおおよその方向感を掴むことが大事です。
とは言え、適当に方向性を決めて良い、ということではありません。
人生は時間が限られていますし、何もかも出来るようになるのは難しいわけですから、しっかりと腹落ちした自分が目指すビジョンに近づく経験を積んでいくことが大切です。
谷中:
「今こういうことをやっていて、将来はこうなりたいのだけど、どうすればいいか」といった漠然としたことも、コンコードさんでご相談させていただいても宜しいのでしょうか。
渡辺:
はい、大丈夫です。
弊社にご相談頂く皆さまは20代の方から50代のエグゼクティブまで実に多様ですが、将来の方向性が固まっている方ばかりではありません。
多くの方が、「このように感じているのだけど、どうなのでしょう」という漠然としたビジョンからご相談が始まります。
私たちはそのようなご希望や夢を共有しつつ、「今の転職市場と、あなたのスキルセットやご経験を考えると、このようなキャリアをつくり方であれば、夢に着実に近付けると思います」というお話をしています。
谷中:
なるほど。本日は3部として大交流会もあるのですが、会社の皆様もご参加いただけるそうですね。
渡辺:
はい。何名か出席させて頂いておりますので、コンコードのメンバーを見つけたら気軽にお声掛けいただければと思います。
谷中:
ありがとうございます。それでは最後に一言、皆さんへのメッセージを頂いて結びとしたいと思います。
渡辺:
まずは、ご自身が本当に情熱を持っていることや大好きなことを追求できそうな方向性を決めて頂ければと思います。
「それは絶対無理でしょ」と人に言われそうなことでも構いません。
本気で人生を賭けられるゴールに向かってキャリアを歩んでいただきたいですし、多くの場合、そのためのキャリア構築の方法はあるのです。
それについては、ぜひお気軽にご相談いただければと思います。ありがとうございました。
谷中:
本日はありがとうございました。
(会場拍手)
一橋大学商学部卒業。三和総合研究所 戦略コンサルティング部門を経て、2008年、コンコードエグゼクティブグループを設立。日本ヘッドハンター大賞MVP受賞。東京大学「未来をつくるキャリアの授業」コースディレクター。著書『ビジネスエリートへのキャリア戦略』(ダイヤモンド社)など。