地域包括ケアシステム
高齢者を地域で支えていくためのシステム
地域包括ケアシステムとは、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援を目的とした、地域の支援・サービス提供体制のために存在するシステムをいう。日本政府は、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、システムの構築を推進する。
この背景には、諸外国に例をみないスピードで高齢化が進行している日本の現状がある。2021年時点で65歳以上の人口は、3,600万人を超えており、65歳以上の人口は2042年には約3,900万人と、ピークを迎えるとされている。さらにその後も75歳以上の人口割合は増加し続けることがほぼ確実な現状がある。
地域包括ケアシステムは、介護保険制度の枠内でだけ完結するものではなく、介護保険制度と医療保険制度の両分野から、高齢者を地域で支えていくためのシステムである。さらに、高齢化の進展状況には大きな地域差が生じている。
このため、保険者である市町村や都道府県が、自主性や主体性を持って、医療や介護、生活支援などを包括的に提供できる体制を目指すことが必要になるとされている。
地域包括ケアシステムにおいては、さまざまな課題を「自助・互助・共助・公助」の連携によって解決していくことが望まれている。
自助
高齢者自身が自立し、自分の力でできる限りのことをする。地域包括ケアシステムでは、高齢者の自立を支えるために、予防やリハビリテーションなどのサービスを提供することが重要となる。
互助
高齢者同士、または家族、近隣住民などがお互いに助け合うことを指す。これはコミュニティの絆を強化し、地域全体の福祉を進展させる効果がある。地域包括ケアシステムでは、互助の精神を生かすために、地域のコミュニティ活動やボランティア活動を促進することが求められる。
共助
地域社会全体が高齢者の支援に取り組む。NPOや民間企業、地域団体などが参画し、地域全体で高齢者の生活支援を進めることが重要となる。地域包括ケアシステムでは、これらの団体との連携を強化することが求められる。
公助
公的な制度やサービスによって高齢者を支援する。地域包括ケアシステムでは、公的な介護保険制度や医療保険制度を活用して、高齢者の医療・介護ニーズを満たすことが求められる。
地域包括ケアシステムは、これら4つの助をバランス良く組み合わせて、高齢者が自分らしい生活を続けられるように支援するものである。
地域包括ケアシステムの具体的な内容は、次の5つの要素から構成されている。
- 1. 介護
- 2. 医療
- 3. 予防
- 4. 生活支援、福祉サービス
- 5. 住まいと住まい方
地域包括ケアシステムは、1980年代、広島県御調町(現:尾道市)の「みつぎ総合病院」という公立総合病院の医師が、医療と福祉、介護にまたがる包括的なケアを実践し、これを提唱したのが始まりといわれている。
その後、地域包括ケアシステムに関する研究が進み、介護分野だけでなく、医療分野とも協働。予防・生活支援・住まいまで統合して考えていくべきだと提案がなされた。
地域包括ケアシステムが普及すると、在宅医療を提供する医療機関と、介護サービスを提供する事業者の連携が進み、要介護者は在宅で医療・介護サービスを受けられるようになることが期待できる。また、事業者などは、買い物や見守りなどの生活支援や24時間体制の定期巡回など、さまざまなサービスを状況に応じて柔軟に提供することが可能だ。
これにより高齢者が自身の地域で自立した生活を続けられることを目指す。また、介護や医療だけでなく、予防や生活支援、住まいといった面での支援を統合的に提供することで、高齢者のQOL(Quality of Life、生活の質)を向上させることができるようになる。
地域包括ケアシステムは、全ての高齢者が自立した生活を送り続けられるようにするための大きなメリットを持つ一方で、それを達成するためにはいくつかの課題を克服しなければならない。
課題としては、地域間での格差が生じやすいこと、各地域のネットワーク構築と人材確保が難しいこと、介護や医療、生活支援などを一体的に運用するための体制作りが必要となる点がある。
地域包括ケアシステムを実現するには、公的な制度やサービスだけでなく、企業などの活動も不可欠である。介護サービス提供者や医療機関、福祉用品の製造販売業者、住宅改修業者、NPOや地域のコミュニティ団体などが重要な役割を果たす。
地域包括ケアシステムは、社会全体の協力とイノベーションによってのみ達成可能となる。全ての関係者が共に努力し、高齢者一人ひとりが尊厳を持って生き生きとした生活を送ることができるような社会を目指すべきだろう。
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