キャリア戦略概論~キャリア戦略をつくる3つのステップ
日本を代表する大手メーカーの大規模なリストラや、海外企業による日系企業の買収劇などが珍しくなくなりました。
安定した企業に入社し、勤め上げることが王道――と考えられてきた日本のキャリア設計の前提が、急速に崩れてしまっています。
二十数年前には想像もつかないような大きな変化です。
多くのビジネスパーソンが、閉塞感と将来に不安を感じていらっしゃるのは当然のことでしょう。
このような不安定な現代において、私たちはどのようにキャリアを設計すればよいのでしょうか?
ビジネスリーダーたちは「キャリア戦略」で人生を飛躍させた
私たちコンコードエグゼクティブグループは、十数年にわたって、転職を検討する方のキャリア設計を支援してきました。
マッキンゼーやBCGをはじめとするコンサルティングファームやPEファンド、外資系企業やベンチャー企業の経営幹部、起業家へキャリアチェンジを果たした方の人数は、数千人にのぼります。
不安定な現代においても、数多くのご相談者が「好きなことで、社会にインパクトをもたらしながら、恵まれた収入も得る」という豊かな人生を歩まれています。
このようなご相談者も大半は、一般的な企業に勤めるビジネスパーソンでした。
裕福な家に生まれたわけでもなく、特別な資格を持っているわけでも、その業界の有名人だったわけでもありません。
また、一発勝負のハイリスクな勝負をしたわけでもありません。
ビジネスリーダーたちが人生を飛躍させた鍵──それは、この二十数年で大きく発達した人材市場を活用した、「キャリア戦略」を軸とするキャリア設計法でした。
「キャリア戦略」とは?
「キャリア戦略」とは、望む人生を実現するために、経るべきキャリアを定めた中長期的なプランです。
コンコードエグゼクティブグループは、専門的なノウハウを体系化した「キャリア戦略」でビジネスリーダーを支援し、その成果は日本ヘッドハンター大賞MVPを受賞するなど外部からの評価にも結実しています。
まずは、キャリア戦略を軸とするキャリア設計法と一般的なキャリア設計法の違いを見ていきましょう。
一般的なキャリア設計法では、現職よりも条件のよい企業へ転職を目指します。
今よりも年収が高い企業、ワークライフバランスのよい企業、大きな規模の仕事のできる企業などへと転職します。
もちろん、悪いことではありません。
どこの企業の条件が良いか知らなくても、人材紹介会社へ相談をすると、「今のスキルや職歴で受かる企業の中で、条件の良い企業」を紹介してもらえます。
経理として働いている方が、「経理の仕事が好きで今後も続けていきたい。ただ、年収をもっと上げたい」というような場合には、このような転職活動で問題ありません。
成長している産業の経理職へ転職したり、外資系企業の経理職へ転職したりすることで実現できる可能性も高いでしょう。
ところが、「今は経理として働いているけれど、将来は経営者になりたい」というような望みを持っている場合のキャリア設計は容易ではありません。
残念ながら、経理経験のみの人材を、経営幹部としていきなり外部から抜擢する企業は、ほとんどありません。
そのため、今のスキル・職歴で受かる企業の中で、要望を満たす転職は難しいという結論になってしまいます。
それでは、どうすれば良いのでしょうか?
そこで登場するのが、キャリア戦略を軸とするキャリア設計法です。
経理職からいきなり経営幹部になることは無理でも、例えば、事業会社(経理)→財務系コンサルファーム(FAS)→事業会社(経営幹部)というキャリア戦略であれば、実現可能です。
年齢や入社する事業会社のステージにもよりますが、かなり早いスピードで経営幹部ポジションへ到達する可能性が高いでしょう。
また、起業を考えるのであれば、事業会社(経理)→財務系コンサルファーム(FAS)→ベンチャーキャピタル→起業というキャリア戦略も良いかもしれません。
このように少し長いスパンで人生をとらえて、必要なスキルや職歴を身につけてからチャレンジすれば、望むキャリアを実現することは十分に可能なのです。
もちろん、財務系コンサル以外にも、いろいろなルートが存在します。
ご相談者の要望やスキル、望むキャリアによって、適切なルートは異なってきます。
適切な「キャリア戦略」を持つと、人生はどのように変わるのか?
適切な「キャリア戦略」を持つと、人生を大きく飛躍させることができます。
私たちのご相談者の事例を見てみましょう。
35歳の女性が、大手事業会社のマーケティング部長(年収1,600万円)へ転職されました。
実際には、手当などついて、収入はさらに200万円程度高くなります。
この女性は、どうしてこのような高いポジションを得ることができたのでしょうか?
彼女のキャリアを追ってみましょう。
彼女は新卒で日系大手企業へ総合職として入社し、同期入社の社員と一緒に営業部門へ配属されました。
しかし、数年が経ち、希望する経営企画やマーケティングの仕事に就くまでには何年もかかるうえ、その部門の幹部となるのにはさらに十数年かかることに気づきます。
悩んだ末に、20代後半となった彼女は、転職活動を行います。
人材紹介会社に相談に行くと、今よりも年収が上がる営業職は紹介されますが、マーケティング職や経営企画職への応募は難しいと言われるばかりです。
困ってしまった彼女は、私たちの会社へ相談にいらっしゃいました。
そこで私たちと一緒に、キャリア戦略を設計し、夢を実現するための一歩を踏み出すこととなりました。
まず、20代後半で戦略系コンサルティングファームへ入社し、大企業の戦略立案や海外マーケティングのプロジェクトを数多く経験されました。
34歳で見事にプロジェクトマネージャーに昇格。
その後、豊富なマーケティング経験と高いリーダーシップを買われた彼女は、著名な大手外資系企業のマーケティング部長に35歳という若さでスカウトされました。
同社でも最年少クラスでの抜擢です。
なんと彼女は、たった7、8年で、念願だった事業会社のマーケティング部門の幹部となり、希望を実現しました。
このように、適切なキャリア戦略を持つと、人生を大きく飛躍させることができるのです。
一方、もし新卒で入った日系企業に残ったままだったとしたら、毎日どんなに仕事をがんばっても、35歳でマーケティング部長に抜擢されることはなかったでしょう。
仮に、働きながらMBAやCPAなどの学位・難関資格を苦労して取得したとしても、やはり社内で営業担当からマーケティング部長へ抜擢されることはなかったでしょう。
キャリア戦略をつくるコツは「キャリアの階段」にある
では、どのようにすれば適切なキャリア戦略をつくることができるのでしょうか?
キャリア戦略をつくるコツは「キャリアの階段」にあります。
「キャリアの階段」とは、望むキャリアのゴールに至るための中間地点のことです。
一足飛びにゴールに行くのが難しい場合は、中間地点となる「キャリアの階段」をつくってゴールを目指すことで、その実現可能性は飛躍的に高まります。
前述の女性のキャリア戦略で重要なポイントは、事業会社の経営企画やマーケティングのポジションを直接目指さなかったことにあります。
日系企業の若手営業というステージから、いきなり他の大手企業のマーケティング部門や経営企画部門へ転職するというのは、少々無理があります。
しかし、コンサルティング業界であれば、若い方を対象に、未経験者でも採用している会社がたくさんあります。
そこで、まずは戦略系ファームに入社して、戦略立案やマーケティングに関する業務経験を積んでおくという選択肢が見えてきます。
一旦、このような業務経験を積めば、事業会社の経営企画やマーケティング部門で“即戦力の経験者人材”として認められて、入社できるチャンスが一気に高まるからです。
一見すると寄り道しているように見えますが、コンサルティングファームに行くことは、彼女にとっては事業会社の経営幹部に至る最短ルートとなったのです。
なお、キャリアの階段は、ご相談者の職歴や要望などに応じて、実に様々な選択肢がありますし、場合によっては、キャリアの階段をツーステップ、スリーステップと挟むこともあります。
ご相談者の皆さんから、「想像もしていなかった方法で、自分の望むキャリアを実現できると知って驚いた」とおっしゃって頂くことも多々あります。
もちろん、自分が欲しいスキルや経験を習得するためだけに在職するのは評価されません。
所属する企業でしっかりとした価値を生み出し、組織に貢献することは前提です。
キャリア戦略は「3つのステップ」で実現させる
キャリア戦略を立て、目指すキャリアを実現することは、登山になぞらえて説明することができます。
登山では、無数にある山の中から自分が登りたい山を選びます。
そして、いまの自分のスキル・体力・装備などを考えて頂上に至るためのルートを設計し、決めたルートで登山を開始します。
登山と同様に、キャリア戦略においても目指すゴールとしてのキャリアビジョンを設定し、そこに至るためのルートを設計します。
具体的には、キャリア戦略は、次の「3つのステップ」で実現させます。
(1)目指すゴールとしてのキャリアビジョンを設定する
(2)現状からキャリアビジョンに至るルートを考える
(3)ルートを歩むために転職活動を成功させる
(1)目指すゴールとしてのキャリアビジョンを設定する
まずはゴールであるキャリアビジョンを設定しなければ、どのようなキャリアを積むべきかを決めることはできません。
キャリアビジョンとは、中長期的なスパンで見た、自分がやりたい仕事や人生の理想像です。
キャリアビジョンを設定することは一見すると当たり前のようですが、キャリアビジョンを設定せずに資格取得に奔走したり、年収基準で求人情報を探したりして転職活動をする人も少なくありません。
キャリアビジョンが不明確なまま闇雲に努力しても、望む人生とは大きく異なってしまったということにもなりかねません。
まずは、キャリアビジョンを設定しましょう。
(2)現状からキャリアビジョンに至るルートを考える
キャリアビジョンを設定したら、現状からキャリアビジョンに至るルートを考えます。
これは、やや難易度が高い作業となります。
無数とも言えるルートの中から、どの転職先をたどればキャリアビジョンの実現可能性があるのか、さらにその中でキャリアビジョンに至る最適なプランはどれなのかを見極める必要があります。
しかしこれは、企業の採用動向に精通していなければわかりません。
また、一般には知られていないルートを活用することで、不可能とも思えるキャリアビジョンに到達する手法も存在します。
(3)ルートを歩むために転職活動を成功させる
キャリアビジョンに至るルートを設計したら、あとはルートに沿って転職活動を成功させていきます。
設計したキャリアビジョンとルートが「絵に描いた餅」となってしまうかどうかは、キャリア戦略実現の勝負所である転職活動を乗り越えるスキルにかかっています。
実力を十二分に発揮するためにも、書類対策や筆記試験対策、ケース面接をはじめとする各種面接対策は必須となります。
また、人材紹介会社が応募先企業との間に築く信頼関係の水準に差があります。
驚くことに、ある人材紹介会社経由だと書類で落ちてしまったが、別の人材紹介会社経由で再応募すると内定を獲得できたということも珍しくありません。
そのため、信頼できる、実績を持つ人材紹介会社と転職活動を行うことが大切です。
一橋大学商学部卒業。三和総合研究所 戦略コンサルティング部門を経て、コンコードエグゼクティブグループを設立。
「日本ヘッドハンター大賞」初代MVPを受賞。2017年に東京大学で開講されたキャリア設計の正規科目「キャリア・マーケットデザイン」のコースディレクターとして、全体企画から講義までを担当するなど学生へのキャリア教育活動を積極的に行っている。
著書の『ビジネスエリートへのキャリア戦略』(ダイヤモンド社刊)、『未来をつくるキャリアの授業』(日本経済新聞出版社刊)は東京大学での授業の教科書に選定された。『新版 コンサル業界大研究』(産学社刊)は東京大学生協本郷書籍部でランキング第1位を獲得。